土曜日、女の子の家の近くに男と男の子はいた。
男の子の手は緊張で震えていた。

「大丈夫だよ。お前ならやれる」

背中をそっと押されると男の子は家の方に向かって歩き出した。
男はその後ろ姿を見ていたが、やがて安心したように何処かに消えた。

すでに積み込みを終え、家主が車に乗り込めば引越しは完了するという状態だ。
男の子の緊張による震えは収まっていたが、涙を堪えるのに必死で言葉が出てこない。
深呼吸をし、ようやく口が開いた。

「伝えたいことがいっぱいあるので、手紙を書きました。読んでください」

「ありがとう。君といれて楽しかったよ。また会おうね」

二人は堪え切れなくなり泣き出した。
女の子は母親に促され車に乗り込み、次第に発進した。
男の子は涙であふれている目を閉じずに車が小さくなるのをずっと見ていた。
見えなくなると、心にぽっかり穴が空いたようになった。
その穴の正体をまだ彼は知らなかった。

女の子は泣きやまないままで車の中で手紙を開いた。
そこには白紙の紙が3枚のみ。戸惑っていると紙に涙が落ちた。
濡れたところから文字が浮かび上がっている。
彼女は再び目を輝かせた。