夜空に君という名のスピカを探して。

「なんだよ宙、大声出して」


 宙くんが急に声を上げたせいで、ダイくんとカズくんが目をパチくりさせてこちらを見ている。

ふたりだけでなく、クラス中の視線を集めていた。


「あ、いや……ちょっとトイレ」

「う、うん? 行ってらっしゃい宙」


 ぎこちなく返事をするカズくんは、わざわざ立ち上がってお手洗いに行くことを公言した彼に戸惑いつつも笑顔で見送ってくれた。

 宙くんが教室を出たのを見計らって『今日は何日経った?』と声をかける。

すると人気がない階段の踊り場で足を止めた宙くんが「二日だ」と答えた。それから乾いた唇を舐めて腕組をすると、深刻そうに切り出す。


「なぁ、楓が起きていられる時間、だんだん伸びてないか?」

『……そう、だね』


 認めたくはないけれど、認めざる負えない。

半日だったものが今では二日、彼の中で私は眠っていたのだ。

あと、実は日が伸びただけではない。目が覚める度に物凄い疲労感に襲われるようになった。

でも宙くんはピンピンしており、共有していた感覚は個々のものになりつつある。

もしかしたら、宙くんといられる時間は残り少ないのかもしれない。

私の消える日が近づいているのだと、薄々悟っていた。


「楓、お前は……」


 なにか言いたげなのに、続きは語られない。

でも私には彼が問いたいことに、察しがついてしまった。

きっと、私が消えるのかどうかを聞きたいのだろう。そればかりは神様以外、知る由もないことだ。

できるだけ長く君のそばにいたいと願っていたのに、うまくいかないものだ。

気持ちが沈んでいきそうになって、それでも湿っぽいのが苦手な私は明るい声で話を切り上げることにする。


『宙くん、そろそろ教室に戻らないと、ダイくんたちが心配するんじゃない?』

「あいつらなら大丈夫だろう。それよりもお前のことのほうが大事だ」

『いや……ほら、トイレが長いと大のほうかなって思われちゃわない?』

「……女あるまじき発言だな」

『言っておくけど、私に前田さんみたいなお淑やかさはないからね』

「それ、自分で言ってて悲しくならないか。というか、なぜそこで前田さんの名前が出てくるんだよ」


 話しているうちに、いつも通りの距離感が戻ってくる。

 でも胸はチクチクと痛いままで、もしかしたら宙くんも私が消えることを寂しいと思ってくれているのかもしれないと淡い期待をした。


 けれど、私は去る人間だ。

君は私のいない世界で、これからの人生を歩んでいく。

だから、永遠に私の気持ちを伝えることなんて出来ないんだろう。