夜空に君という名のスピカを探して。

『それで私、誰にも分かってもらえないからって逃げ出したの』


 あの日の後悔と未練が、涙になってボロボロと溢れる。それが宙くんにも伝わって、視界が歪んだ。

でも、私は極めて明るい口調で言った。そうしないと、みっともなく泣きじゃくってしまいそうだったから。

 だけど、宙くんは咎めることなく静かに涙を拭う。

彼は自分の頬に触れているだけなのだろうけれど、その手つきは私を労わってくれているようで優しかった。


『でも本当は逃げちゃいけなかった。どんなに否定されても貫くくらいの気持ちで、向き合わなきゃいけなかったんだよね』


 夢を見つけるのは、あの幾千の星々の中からスピカを見つけるより難しい。

だから、もっと大事にしなきゃいけなかった。

大げさな言い方だけれど、世界中の人に認められなくても、遠回りをしてでも、叶えるんだって意思を両親にも伝えなきゃいけなかったんだ。


『私はもう、どんなに望んでも夢を叶えられない。でも、宙くんは違う』

「違うって?」

『宙くんは私と違って未来がある、自由がある。だから自分の道を決められるんだよ』

「俺の道……」


 私の言葉を復唱して考えるように閉眼した彼は、自分の心と向き合っているのだと思う。

 今までのように『しなきゃいけない』と言い聞かせるのではなく、本心に『どうしたいか』と問いかけているのだ。

しばらくして、閉ざされていた視界が再び星空を映す。

何度も眺めていた景色のはずなのに、さっきよりも鮮明に見えた気がした。


「楓、俺……ただ心のゆくままに星を追求したい」


 彼の答えは誰かに決められた道ではなく、自分の望む未来だった。

私は心を動かしてくれた彼に嬉しくなって、涙交じりの声で返事をする。


『それが宙くんの、本当の心の声なんだね』

「あぁ、父さんと母さんに認めてもらえなくても、それでも天文学者になりたい」

『うん、世界中の誰もが宙くんの夢を否定しても、私だけは応援するよ』


 ──君の味方だよ。

 ずっと殻に籠っていた彼は、ついに自由に向かって羽化した。

飛び立つ先が茨の道でも、進む覚悟を決めた宙くんを応援したい。


「ありがとな、楓。言葉にしたら決心がついた」

『私だけじゃないよ。きっとダイくんもカズくんも宙くんの味方だと思う』

「あぁ、そんなふたりと繋ぎ合わせてくれた楓には感謝してる」

 空には宙くんの決心を祝福するかのように星々が瞬いていて、私たちはつい微笑む。