夜空に君という名のスピカを探して。

「俺も初めてここへ来たときは、楓と同じことを思った」

 宙くんはそう言って芝生の上に腰を降ろし、大の字で寝転ぶ。

この場には私と彼しかいなくて、星空も独り占めで、生きている人間はこの世界にふたりだけしかいないような錯覚に陥る。

なんて贅沢な時間だろう。

十七年間生きてきた中で、いちばんといっていいほどに綺麗な星空だった。


「昔からここに来ると、悩んでることがちっぽけなことのように思えた」

『宙くんは……』


 ここへ来るとき、どんな悩みをその胸に抱えているの?

 そう聞きたかったのに、まだそのときではない気がして口をつぐむ。

宙くんにとって特別な場所であろうここに私を連れてきてくれたということは、なにかを話そうとしてくれているのだろうから、いくらでも君の言葉を待とうと思う。


「この広い世界を見てると、俺の悩みなんて大したことないって思えるんだよ」


 一緒に星空を見上げながら、私は宙くんの話に耳を傾ける。

私たちを囲むように生えているたんぽぽの綿毛が、そよ風によってまだ見ぬ世界へと運ばれていくのが見えた。

ここは風も星も草の匂いも、すべてが優しい。


「……天文学者っていうのは、望遠鏡を使って天体を観測して研究する科学者なんだ」

『宙くんの部屋にも望遠鏡があったよね』


 あの大きな望遠鏡で星を見上げるたび、宙くんはなにを考えてたんだろう。

星に焦がれて、それでも純粋に星を追求できない現実に悲しんでいたのだろうか。

「俺さ、星がどうやって生まれるのかを知りたいんだ」

『星がどうやって生まれるのか……? 天文学者って、そんなことまで調べられるの?』

「あぁ、生まれたばかりの星、これから星が生まれそうな場所を望遠鏡で観測していれば、必ず絶対に解明できる」

 目を輝かせてただ真っ直ぐに星を見つめる宙くんは、今まで見てきた中でいちばん生き生きとしていた。


「ずっと星のことだけを考えていられれば、いいのにな」

『……天文学者になるとは、言わないんだね』

「皆が俺に次期社長として、あの不動産会社を継ぐことを望んでるからな。加賀見不動産
に務める社員二千人を路頭に迷わせるわけにはいかないだろ」


 それはご両親から、言い聞かせられてきた言葉だろうか。

私は宙くんみたいに会社を継がなきゃいけないわけじゃないけれど、食べていけない、叶うはずないと夢を否定された。

それでも諦めきれなくて説得しても、聞く耳すら持ってくれなかった。

 確実性があるか、世間一般でいう立派な大人のくくりから逸脱していないか、大人たちの価値観という名のレールに私たち子どもの将来を当てはめようとする。

 物事の善悪が人の数ほどあるように、常に大人の言う生き方が正しいとは限らない。

あくまで親の意見は自分が道を決めるための判断材料だと、そう思うのだ。