夜空に君という名のスピカを探して。

『ここ、私の家の近くだ』

「え、そうなのか?」


 道路を渡って階段を上がる宙くんが、声にわずかな驚きを含ませる。

それでも足は止めず、階段の先に続く坂を上がって行く彼に、私は『うん』と答えた。


『あそこの紺色の屋根とピンクの自転車が置いてある家、分かる?』

「あぁ、見える」

『あれが私の家だよ』

「まさか、俺の行きたい場所の近くに、お前の家があるなんてな。その……寄ってくか?」


 心の端で私がいなくなったあとの両親が、どう過ごしているのかが気がかりだった。

なので躊躇いがちに彼が提案してくれたことはありがたいことのはずなのだけれど、私は即決できないでいる。

家族に会えば、あの家に行けば、自分が死んでいるという事実を嫌でも目の当たりにすることになる。

お母さんやお父さんとあんな別れ方をして、もう二度と会えない場所に逝ってしまった私は親不孝者だ。

だから余計に、あの家に行くことが怖かった。


「怖いのか」

『どうして……わかったの?』

「心臓がバクバクしてるし、不安にも似たモヤモヤ感が胸の中にあるんだよ」

『そっか、全部伝わっちゃうんだったね』


 自嘲的にあははと笑って、私はやんわりとその事実を認める。

すると宙くんは、私の家から視線をそらして再び歩みを進めた。

「怖いんなら、見なくていい」

『宙くん?』

「その代わり、いいもんを見せてやる」


 自信満々にそう言った彼が連れてきてくれた場所は人気も遊具もベンチも自販機もなにもない、木々に囲まれた大きな公園だった。

「着いたぞ」

『着いたって……。こんなに遅い時間に、公園になんの用事があるの』

「用事があるのは公園じゃなくて、空だ」


 公園の中央まで歩いて行った宙くんが顔を上げる。

そこには月並みな言葉だけれど、降ってきそうなほどの満天の星空が広がっていた。

光度も光彩も様々で統一性はないのに、それがダイヤモンドのように無数の煌きを放っている。

それは宝箱をひっくり返したかのように、息を呑むほどに美しい景色だった。


『自分の家の近くに、こんな場所があるだなんて知らなかった。今にも星に手が届きそう』


 胸に熱く迫りくるものを感じて、ほうっと息をつく。

宇宙の神秘に触れたような、そんな特別さを感じる光景だった。