夜空に君という名のスピカを探して。

「俺、難しいことは分かんないけどさ、宙の人生は宙のものだぞ」


 ダイくんの言葉には、聞き覚えがあった。

一度だって忘れたことはない、私の大事な親友たちがかけてくれたものと同じだ。

『楓の人生なんだし、好きに生きなきゃ損だ』と、私の背中を押してくれた言葉だった。


「ダイ、いいこと言うじゃん」

「だろ」

「って、すぐに調子乗る。でも、俺もダイの意見に賛成だよ」

「そう言うこと、俺もカズも宙に後悔してほしくないってことだな」


 明るく、それでいて真剣に励ましてくれているふたりは、押しつけがましくない優しさで宙くんを救おうとしている。

それに宙くんの心が動いているのは、感覚を共有している私にも分かった。

 でも宙くんは唇を噛んで、それから諦めを含んだ笑みを漏らす。


「ダイ、カズ……ありがとう。でも、いいんだ」


 そう言ったた宙くんは辛そうで、私まで胸が苦しくなる。

 どうして、ふたりの言葉でさえ宙くんの気持ちは変えられないのだろうか。ただ見守ることしかできないことが歯がゆい。

 ダイくんやカズくんも同じ気待ちなのか、寂しそうに顔を見合わせる。


「なぁ、カズ」

「うん、そうだな、ダイ」


 するとふたりは目配せをして頷き、なにかを企んでいるような含み笑いを浮かべる。

それを訝しむように宙くんが見ていると、ダイくんがビシッと人差し指を向けてきた。


「宙、放課後開けとけよ?」

「駅前に雰囲気のいいカフェがあるんだ」


 ダイくんに続けてカズくんまで、急にどうしたのだろう。

話の流れが読めずに、私と宙くんは目を点にしてふたりの顔を凝視する。

「なんなんだ、急に」

 戸惑っている宙くんの肩にふたりはポンッと手を乗せると、声をそろえて「「まぁまぁ」」とそう言った。



 カランコロンという軽やかなベルの音とともに店内へ入ると、明治時代を思わせるレトロな木造の空間が広がっている。


 放課後、私たちはダイくんとカズくんに連れられて駅前のブティックやレストランが建ち並ぶ通りの一角。

小さな洋館にも見える『カフェ・エトワール』へとやって来ていた。

 仕立てのよさそうな執事服のような制服に身を包んだ店員の男性に席に案内されると、さっそく三人はメニューを開く。

そこには写真とメニューの名前が書かれているのだが、ブルーベリの乗ったチーズケーキには【ブルー真珠のエレガントチーズケーキ】、ブリュレ
には【恋焦がれるホイップブリュレ】など、いかにもインスタ映えしそうな食べ物の名前がずらりと並んでいた。