夜空に君という名のスピカを探して。

「やっと、楓を見られた」

「やっと、私の姿で君に会えた」

 ほとんど同時に手を握り合って、額を重ねた。

「楓、夢を叶えたんだな」

「うん、宙くんは?」

「俺は国立天文台で研究員をやってる。

今は宇宙の最大の謎と言われている、観測できない暗黒物質、ダークマターについて研究中だ」

 難しい単語がいくつか出てきて、私は眉間にしわを寄せながら首を傾げる。


「なんか、悪役の必殺技みたいな名前だね」

「なに言ってるんだ。ダークマターは宇宙の約二十五パーセントを占めている。この物質を解き明かすということは、宇宙を解き明かすことと同義だ」


 星や宇宙のこととなると熱くなるところは、五年経っても変わらないんだな。

夢は出会ったときはキラキラと輝いて見える。

ワクワクが止まらなくて、夢を叶えるために努力している時間が楽しかったりするのだ。

 けれど夢に本気で向き合っていくうちに、理想と現実のギャップが見えてくる。

失敗や実力差を思い知って、いつしか夢を純粋に好きでいられなくなることがあるのだ。

私も小説だけでなく脚本やゲームのシナリオライターのコンペに参加したことがあったのだが、すべて落選してしまって苦しかった経験がある。

だから夢を追うことでなにがいちばん大変かと言ったら、熱意を失わないことなのかもしれない。

私であれば書くことが好き、宙くんであれば星が好き、というように夢を一途に愛することこそが難しいのだと思う。

 宙くんは星好きに宇宙好きがプラスされており、熱意を失うどころか何倍にも膨れ上がって勢いを増している。


「じゃあ、宙くん。これから長い時間をかけて、そのダークなんちゃらのことを教えてね」

「ダークマターだ」

「そう、それそれ」

「相変わらず、適当なやつだな」


 呆れている宙くんに、私はぶっと吹き出す。

そう言う彼も、頭が固いところは全然変わっていない。

変わったところといえば、顔から幼さが消えて立派な成人男性になっているところだろうか。