夜空に君という名のスピカを探して。

「……あっ……」


 そして桜が消えて世界が元に戻る。

くるりと当たりを見渡すと、茜色だった空は濃紺に戻っていた。

私が失っていたものをすべて取り戻したから、幻は役目を終えたように消えたのかもしれない。


「……行こう、あの人に会いに」


 私は前を真っ直ぐに見据えて、ゆっくりと一歩を踏み出す。

もう振り返らなかった。

どんどん坂道を上っていき、私を待っているだろう彼の姿を思い出して笑みを浮かべる。

もし今日会えなくても、何度でも君を探して会いに行く。

そんな強い気持ちを胸に坂を上りきり、あの公園の入口にたどり着く。

やっぱりここで見る星や月は、地上のどこよりも鮮明に見えた。

 無数の輝きに見守られて、私は公園の中へと歩いていく。

すると天然のプラネタリウムを、中央のいちばんいい場所で見ている男性を見つける。

その人はこちらに背を向ける形で立っており、見覚えのある紺のタートルネックと黒のスキニーパンツを身に着けていた。

どこでだったかと記憶を手繰り寄せると、すぐに今日本屋さんで見かけた男性だと分かった。

星空を貸し切りで見上げている彼のうしろに立ち、私は足を止める。

その手には私のデビュー作、【夜空に君という名のスピカを探して。】の本がある。

 君は私のことを覚えてくれていたんだね。

それで、ちゃんと気づいてくれた。

この作品が、私たちの物語であることに。

 今すぐにでも声をかけたい、駆け寄って抱きついてしまいたい。

 でも、なんて声をかけよう。

まずはなにから話そう。

この五年の間にあったこと、話したいこと、伝えたいことがたくさんある。

なのにどの言葉も一気に飛び出そうとして、喉の奥に詰まってしまう。