「宙くん……私の大好きな人……っ」


 忘れていたことがありえないくらいに、私の心を占領する人。

やっと、どこかに置き去りにしてきた心の欠片を見つけた。

もううっかり落としてしまわないようにと、私は胸を押さえて人目も気にせずに泣き続ける。

彩と由美子は私の背を優しく撫でて、なにも聞かずに寄り添ってくれていた。



 心に決めたことがある。

私はゆっくりと自宅前の石段を上りながら、すでに散った桜の木に目を向けた。

月明りと街頭に照らされた枝には新芽が顔を出しており、四月は終わりを迎えようとしている。

だから、どうしても急がなければいけない。


「スピカの星が、消えてしまう前に」


 彩と由美子とカフェで別れた私は、迷わずにあの公園を目指していた。

深い海のように濃紺に染まりつつある空の下、あの場所に行けば君に会える気がして足取りも軽くなる。

 だけど、あれから五年が経っている。

私のことなんて忘れていたるかもしれない、そもそも今日会える保証もない。


 考えれば考えるほど、いろんな不安が次々と湧き上がる。

それらを払拭するように、私は別れ際に聞いた宙くんの言葉を思い出す。


『なら俺は……何度もスピカを見上げる。それで、立ち止まらずに歩き続けるよ。その先に楓がいるって信じて』


 薄情な私とは違って彼は再会のときを信じ、何度もスピカの星を眺めながら待ってくれていたはずだ。