「……っ、本気で、もう会えないかと思ったぞ……」

『あっ……ごめんね、心配かけて。また、宙くんに会えて本当によかった』


 幸福と絶望が同時に胸にわきあがる。

目覚められて嬉しいのに、どんどん眠る時間が伸びていることに気が沈んだ。

今すぐにでも、声を張り上げて泣きわめいてしまいたい。

彼のそばにいたくても叶わない、足掻いてもどうにもならない現状に心が押し潰されそうだ。


 朝起きて目が覚めるたび、この人は何度こんな不安と戦っているんだろう。

もう、自惚れなんて思わない。

どんな形かは分からないけれど、宙くんにとっても私の存在は大事なのだ。

だから、私の都合で勝手に関わって、勝手にいなくなることが申し訳なかった。


『書き終えるまでは……宙くんのそばにいられる気がするんだ。だから、まだ大丈夫』

「……楓には悪いと思うけど……。俺、完結するのが少しだけ怖い」

『私もだよ……。完結させたいのに、これが終わったらって考えると怖くなる』


 いつも意識が落ちるとき、まるで微睡みの中にいるかのような心地よい眠気に襲われた。

心地よいはずなのに、いつも胸の奥に感じるのは不安。

だから次がありますように、宙くんとの繋がりが消えませんように、何度も何度もそう強く願っていた。


「楓、小説では俺たちずっと一緒にいられる未来がいいな」

『ずっと一緒に……うん、そうだね』


 宙くんがパソコンを開いて、電源をボタンを押す。

私たちはこれが最後だと分かっているかのように、強すぎるブルーライトの光を感慨深い気持ちでじっと見つめていた。

 “小説では”という彼の言葉は、現実では絶対にそうならないから出たものだった。

ずっと一緒にいられる未来、私たちが綴るのは夢物語だ。