「卒業、おめでとう」

 私が、風にさらわれたスカートを手で押さえながら言ったら、上坂は笑った。

「そっちも、おめでとう。答辞、めちゃめちゃ緊張してただろ」

「……わかった?」

「わかるよ。階段踏み外さないかと、見ててひやひやした」

「まだ本命の受験が残っているのに、そんな縁起の悪いことできないわよ」

「階段落ちなかったから、きっと受験も大丈夫だよ」

 私は、ゆっくりと上坂に近づいた。


「何、見てたの?」

 上坂の立っていたのは、屋上のフェンスのそば。隣に立って、私も同じように下をながめる。眼下には、昇降口から溢れる卒業生と在校生、それに保護者が、校門に向かってうねる波のように流れていた。