「ありがとうございます」

 にっこりとそつのない笑顔を返して、私は椅子に座った。感情が顔に出ないことで、いいこともあるんだ。緊張してたこと、ばれなくてよかった……

 その後、校歌斉唱があって、卒業式は滞りなく終了した。


  ☆


 重い扉を開くと、暖かい風が強く吹き抜けた。

 何度、ランチバックを持ってこの扉を開けただろう。それも、これで最後かあ。そう思うと、古びた扉もどこか感慨深い。でも、今私の手にあるのは、筒に入れられた卒業証書だけ。

 それは、屋上の端っこで下を見ていた上坂も同じだ。


「よ」

 私に気が付いた上坂が、青い空を背にして振り向く。

 その光景に、私が初めて上坂と出逢った日を思い出した。