あの月が丸くなるまで

 あわてて拾い集める私の目に、一枚のプリントが窓の方へ飛んでいくのが見えた。

 ああ、下まで拾いに行かなきゃ……と、そのプリントを見送っていた時だった。

『よ、と』 

 私の横を駆け抜けて、一人の男子生徒が窓から外へと飛び出した。……ように、見えた。

 その男子生徒は、器用に窓枠に手をかけて、空へと身を乗り出していた。長い腕の先で、プリントは見事にその男子生徒に捕獲され……って、ここ、三階!!

 見ているこっちの方が血の気が引いて、私はその場から動けなかった。だから、その男子生徒が、

『はい』

 と、そのプリントを差し出しても、お礼を言うこともできなかった。

 男子生徒はそんな私を気にするでもなく、廊下の向こうで読んでいる女生徒たちの方へと走っていく。

 その場に残された私の目と心には、いまだに窓から空へと羽ばたいていきそうな男子生徒の姿が焼き付いていた。