あの月が丸くなるまで

「奴には細心の注意を払え。うっかり気を許すな。今日だって間に合ったからよかったものの……」

「そうだ。ありがと、拓兄。でも、もうすぐ私たち関係なくなるから。無用な心配よ、それ」

「え、いいの? 美希ちゃん、ホントは彼のこと、好きなんでしょ」

 う。


 さくりと莉奈さんに言われて、私は迷ったけど素直にうなずいた。

「なにい?!」



 きっかけは、些細なことだった。きっと、上坂は覚えてはいない。



 あれは、入学してすぐの春。

 クラス委員となった私は、配るように先生に言われたプリントを持って廊下を急いでいた。

『きゃ……』

 暑いほどの陽気に全開していた窓から、強い春の風が吹きこんで、私の持っていたプリントが大量に宙を舞う。