あの月が丸くなるまで

「お前、つきあってんのに、一度も俺のこと名前で呼んでくれなかったじゃん。仲いいやつで俺のこと苗字で呼ぶなんて、おまえくらいのもんだよ」

 私だけ。だったらそれって、名前で呼ぶよりよっぽど。

「またね。上坂」

 ふ、と笑うと、上坂はぺこりと一礼をして私たちに背を向けた。その足取りは、意外に軽い。


「あれは、どういう精神構造をした男なんだ?」

 仏頂面も極まれりな顔で拓兄が言った。

「多分、拓兄が苦手な部類の人間だよ」

 あー、でも。高校の頃の拓兄って、割と上坂に近い人種だったような気がする。拓兄、年々、お父さんに似てきちゃったから。