あの月が丸くなるまで

「あ、ちょっとごめん」

 何事もなかったように、上坂が自分のスマホを取り出す。

「もしもーし」


 ……あのさあ。

 このタイミングで、普通にそれ、出る? そんで、普通に話し始める? あきれて開いた口が本当に塞がらなくなったのは、人生で初めての経験だわ。


「うん。え、あれ今夜だっけ? いいよ、こっち終わったし。……おっけー。じゃ、これから行くわ」

 そう言って通話を終了させると、にっこりと笑った。

「んじゃ、ホテルはまたね。俺、これから遊び行くから。今日はそれなりに楽しかったよ。図書館でデートも、たまには悪くないね」

 たまにならね、ともう一度強調すると上坂は、ひらひらと手を振りながら私に背を向けた。


 残された私は、唖然とするしかなかった。

 それ……ホテル行かなければ私は必要ないってこと? 

 考えている間にも上坂の姿は、あっという間に人ごみにまぎれて見えなくなってしまった。