あの月が丸くなるまで

「あー……あれは、練習分。俺は美希の弁当があったし、捨てるものもったいなかったし」

 少し赤い顔をして、上坂が視線をそらす。その顔が妙に可愛くてくすくすと笑っていたら、上坂が、に、と笑った。

「美希のこと、かわいいお嬢さんねって、褒めてた」

「ええっ?!」

 今度は上坂が笑い始めた。

 無理して笑っているだろう上坂の顔に、薄闇がかかる。夜が始まろうとしているけど、帰ろう、と言い出せなかった。もしかしたら、上坂も同じだったのかもしれない。

 だから私は、空を向いて別のセリフを口にする。


「もうすぐ、満月だね」

 上坂が言わないから、私が言った。