あの月が丸くなるまで

 人気のない公園のベンチに座って、私たちは取り留めもない話をする。多分、お互いに話したいことは別のことなんだろうけど、どちらも言い出せないままどうでもいい話を意図的に続けていた。

 空は、次第に茜色に染まっていく。私が東の空を見上げたタイミングで、短い沈黙がおとずれた。

 空には、丸くなりかけた月が一つ。


「……俺さ」

 しばらくして、上坂が言った。

「今日、帰ってからもう一度母さんに話した。今度は本気で、メイクアップアーティストになりたいって」

「お母様?」

「うん。親父はもう仕事行ってたから、とりあえず、母さんに」

「お母様、なんて?」