あの月が丸くなるまで

「朝早くから、キッチンで何やっているのかと思ったら、あの子、一生懸命おにぎり作っていて……今どきは、それほど珍しいことではないのよね。でも」

 そう言うと、お母様の表情が少しだけ陰った。

「この家で、男の方がキッチンに立つということは、それだけで衝撃的なことだったわ。自分でも、あんなに衝撃を受けるとは思っていなかった。この家の常識が一般的ではないことは分かっていたつもりだったのに……いつの間にか私も、この家に染まっていたのね」

「上坂君、お母様は特に文句も言わなかった、って言ってました」

「夫が見たらきっと怒ったでしょうけど、あの日は、たまたま留守だったの。あのおにぎりね、私にも、一つくれたのよ」

「そうなんですか?」