あの月が丸くなるまで

「この家は、世間からくらべると少し特殊なのかもしれません。家長の言うことは絶対で、あの子も進学からその先の将来まですべて、夫が一人で決めてきましたの。蓮も、夫の言うことをよく聞く素直でおとなしい子でしたのに、高校に入る頃から、あの子はあの子なりに自分の意思を示すようになって……たびたび夫と衝突するようになりました」

「……」

 学校のみんなが知っている上坂は、いつでも明るくて奔放で、お母様が言うようなイメージとは結び付かない。


「蓮はね、美容師になりたいのですって」

「美容師……ですか?」

「ええ」

 いつか行った美容院での、上坂の真剣な目を思い出す。

 あれが、上坂のやりたかった未来なんだ。だからあんなに真剣だったのね。

「正確には、メイクアップアーティストだそうです」

 ちょうど部屋に入ってきた松井さんが、お母様の言葉を補足した。お母様は、おっとりと首をかしげる。