あの月が丸くなるまで

 これって、はたから見たらただの痴話げんかだよね。

 もの珍しそうに視線を向けた人たちも同じように思ったのか、すぐに視線をそらしてそれぞれに歩いていく。


「どうして、よけなかったんですか?」

 私の平手がよけられないほど、運動神経が悪いとは思えない。
 ちなみに、平手は振りかぶるから簡単によけることができるけど、下からの拳や頭突きは避けにくい。以前、私が上坂にやったようなやつ。あごが上がるとフロントががら空きになるから、そこを狙うと不埒な輩から逃げられる可能性が高くなる。女子にはためになる話。

 閑話休題。


 自嘲するように、岡崎さんは笑った。

「なんでかな。ちょっと君に殴られてみたかった」

「そういう趣味なんですか?」

「どちらかというと、普段はいじめる方が好きだけど」

 ああ、そんな感じ。