あの月が丸くなるまで

「寝てるだけであっという間に一晩くらいたっちゃうわよ。ここ、ご飯美味しいのよ?」

「はあい。先生は?」

「学校への報告書を持って、丸山先生と原先生は帰られたわ。お二人とも心配なさってたから、学校行ったら経過報告がてら保健室にも顔を出してね」

「うん」 

 それからママは、気をつけの姿勢で立っていた上坂に向き直った。


「上坂君? 君も、今日はありがとうね」

「あ、俺……」

「ありがと、上坂」

 上坂が何か言うより前に、私は言葉を被せた。

「たまたま保健室にいたからって、丸山先生に手伝わされることになったのは運が悪かったわね。もう大丈夫だから。遅くまでつきあわせて、ごめんね」

 まくし立てるように言った私を、上坂は目を見開いて見ていた。そして、きつく唇を引き結ぶと、失礼します、と一度頭をさげて出て行った。