あの月が丸くなるまで

「すげえな、美希って。気に入った」

「この状況で気に入られても、あまり嬉しくないわね」

 私は路上に放り出されたバッグを拾って、立ち上がった上坂に彼のカバンを渡した。

「うち、すぐそこだから。送ってくれてありがと」

「いやいや、もう暗いから。女の子ひとりじゃ危ないって」

「こんなかわいげのない女、襲う物好きなんていないわよ」

「じゃ、俺、物好きなんだ」

 上坂は、何事もなかったように私の横に並んで歩きだした。その様子があまりにも自然だったので、私は、謝る機会を失ってしまった。

「……そうね。がり勉だの真面目だのはよく言われるけど、私のこと女の子扱いする人なんて、上坂くらいのものよ」