あの月が丸くなるまで

「全然。言ったでしょ? 好きでもない人と、キスなんかするもんじゃないって」

「俺、美希のこと好きだよ? だから、心だけじゃなくて、身体も美希とつながりたい」

 はずみで口をついたさっきの言葉を持ち出されて、か、と私の頬が熱くなる。黙ってしまった私に、上坂は、ここへ来たときとはうってかわって楽しそうな顔で言った。


「あのさ」

「何よ」

「美希は、ちゃんと俺に返せるもの、持ってるよ」

 耳元でささやかれた声に、どきりと胸が鳴った。

 返せるって、まさか……

「それ、ちょうだい」

 けれど、予想に反して上坂が指さしたのは、私が手にしてたランチバックだった。この暑さの中でコインロッカーに入れといたら悪くなっちゃうと思って、お財布をこっちに移してずっと持ち歩いていたのだ。