あの月が丸くなるまで

「議員の妻が茶髪だなんて軽薄な色をしてるもんじゃない、って言われて、結婚した時から黒く染めてストパーかけてるんだと。俺も当たり前に同じことをするって思ってたんだろうな。嫌だって言ったら、子供が口答えするなって、歯牙にもかけずに一蹴された」

「上坂……」

「いつだってそうなんだ。親父は、自分の決めたことが世界で一番正しいと思っている。まあ、それで今の地位を確立してるんだから、国会議員としてはきっと優秀なんだろう。だけど、他の人間の価値観までが自分と同じ、と思っているあたり、周りの人間にしてみれば迷惑以外のなにものでもない。人には人の、俺には俺の価値観がある、なんて、思いもしないんだ。ホント、いい年してばっかじゃねえの」

 そう言って乾いた笑い声をたてる上坂を、私は、じ、と見つめる。