あの月が丸くなるまで

 上坂は電車に乗っている間、一言も口をきかなかった。ただ、私の手だけは離さずにずっと握っていた。

 そうしてたどり着いた先は、高く見上げる赤い鉄骨……東京タワーだった。

  ☆


「あれ、親父の第一秘書なんだ」

 一番高いところにある展望台まで登ると、窓際の手すりにもたれながら上坂がポツリと言った。


「さっきの人?」

「うん。うちって爺ちゃんが大臣だったし親父も国会議員だから、将来は俺も政界に、ってのが当たり前みたいな空気があってさ。なんかもめごとでもあったら親父も俺も困るって、普段の生活にもかなりうるさい。それに加えて古い家柄だから、男はこうあるべき、女はこうあるべき、みたいな考えに凝り固まっていて、やることなすことすべて決められていて」