あの月が丸くなるまで

 とくとくと続けるその男性に、ち、と上坂が舌打ちをした。

「うるせえよ、いちいち」

 吐き捨てるように言うと、上坂は私の手を握ってさっさと歩きはじめた。私は、その男性に軽く頭を下げると、上坂に引っ張られるようについていく。その男性は、追ってはこなかった。


 歩きながら、私は何も言わない背中を見つめる。

 上坂……怒っている? 私と言い合いしていた時とは、同じ怒っているでも全然違う。あんな冷たい態度の上坂、初めて見た。

 気まずい雰囲気のまま、二人で黙って歩く。

 強く握られた手が、ひんやりと冷たかった。

 しばらくして、上坂は一つため息をついて立ち止まる。

「美希」

「ん?」

「行きたいとこがあるんだけど、つき合ってくれる?」

 行きたいところ。

 上坂の様子からして、それはきっと、以前に誘ったようなホテルなんかじゃない。

「うん」

 私は、躊躇なく即答した。