「……ら、おーい、梶原!」

 自分が呼ばれていることに気づいて、私は没頭していた本の世界から急速に浮上する。

 もうすぐ午後の授業が始まろうとする昼休みの教室は、まだ半分くらいしか生徒がいなかった。

 ずれためがねをかけ直しながら振り向くと、教室の後ろの方から男子が呼んでいる。

「何よ、仁田」

「お前に、客―」

「客?」

 誰だろ。

 仁田の位置からして、どうやら廊下に私を呼びだした奴がいるらしい。

 私は、本にしおりを挟むと立ちあがった。

 ち、クライマックスのいいところだったのに。

「誰?」

 聞いても仁田は素知らぬ顔をして、答えない。教室の中にいる女子達も、やけにこちらを気にしてソワソワしてる。不思議に思いながら廊下を覗くと、そこに立っていたのは背の高い男子生徒だった。