「よおにび。こんな夜には酒が飲みたくなるもんだろ?」
「よくおわかりで。…で、その酒どこから盗んできたの?」
「父さんから」
それなら美味しいに違いない、と確信して窓の側へと一目を招き入れる。入る時とは反対に襖を閉める時は音も立てずに閉めるのでそれを入る時にもやってくれないだろうかと頭を抱えた。よいしょと掛け声を発して棚から飾り物と見せかけているお猪口を2つ手に持つ。はい、と1つを一目に渡して畳へと足を崩して座った。
「かーずめ、妾にそのお酒をいれてくんなまし」
「あのなあ、その気色悪い口調やめろって」
おや失礼とクスクス笑えばため息をつかれてからお猪口に酒が注がれる。透明で濁りひとつない澄んだ日本酒。最近は洋酒のわいんという物が流行っているそうだが、美味しいのだろうか。乾杯、と一目のお猪口に私のお猪口を当ててくい、と酒を飲み干す。うん、美味しい。喉に通るちょっとした辛みがまた美味しさを誘った。窓の外で微笑む月に酒をかざしてまた1口煽る。ん、とお猪口を一目に突き出せばつつがなく酒が注がれた。こんないい日なんだ。酒でも飲まないと勿体ないでしょう?と一目に微笑めばだな、と微笑み返される。普段目つきの悪い彼だが、笑っている時の顔は1級品だと笑った。その笑顔が自分だけに向けるものだったらいいのに、なんて醜い感情を抱く。それを飲む込むかのように酒を煽った。どうやら一目は相当いい酒を盗んできたらしい。直ぐに酔ってしまいそうな程度数は強そうなのに辞める気は起きない。もう一杯、と今度は自分で酒を注いで夜を過ごす。飲めば飲むほど眠くなってきて、ウトウトしながら酒を楽しんでいると一目から羽織をかけられた。
「…寝ろってこと?」
「いーや。別に俺はにびの好きにすればいいと思うからなんも言わねーけど。程々にはしとけよ」
もう酒も残り少ねーからよ、とちゃぷちゃぷと少量の音が鳴る酒瓶を振られる。いつの間に、と思い外を見てみれば微笑んでいた月は東へと降りていってしまっている。ああ、もっと一目とお話していたかったな、と思うけど如何せん体が重い。そのままどさっと畳へと倒れ込み目を閉じる。おやすみ、と羽織をかけ直され一目は外へといってしまった。それでも近くに気配を感じる。きっと私を守るために今日も部屋の外で寝るんだろう。一緒に寝てくれればいいのに。そう思うけど中々言えない。ぎゅっと羽織を握って体を丸めた。そういえば明日は殿方との会談があったっけ…なんて嫌なことを思い出しながら眠りへと落ちる。眠る間際に暖かい何かが触れた気がして、それを掴もうとしたけど、その何かはするりと私から離れていってしまった。