城の最上階、こじんまりとした6畳半の部屋。そこが私の部屋だった。1つしかない窓から月を眺めて、満月だから上等な酒でも飲みたい、なんて考える。私の両親はなんでも叶えてくれるが姫らしくないことなんてさせてはくれないのでこれもどうせ淡い夢だと諦めた。おーい瑠璃|《るり》ー、と私の、姫の名前を呼ぶ声がする。その偽の名前が嫌で眉をひそめた。またあいつは…と溜息をこぼして窓から視線を外す。はいはい、と返事をする間もなくスパーンと障子が音を立てて開かれ再度ため息を零す羽目となった。何度言えばあいつは了承無しに部屋に入ることを辞めてくれるのかしら、と思いをめぐらせる。そんな私の悩みなんて露知らず。上等な酒の入っているであろう酒瓶に少しだけ気を良くしながら私はその男を招き入れた。

「一目|《かずめ》、今夜は月が綺麗ね」