「お疲れ様です!」

朝子たちも笑顔で返してくれた。藍は、早く家に帰って休もうと足を早める。

道はすっかり暗くなっている。藍は街灯を頼りに歩いていた。お腹が何度も鳴り、藍は一人でよかったと心から思う。

家の近くまで来た時だった。歩いていた藍は、「すみません!」と話しかけられる。振り向くと、黒いコートを着た男性が困り顔で立っていた。

「友人と旅行に来ているんですけど、急に苦しみ出したんです!この辺りで病院ってありますか?この辺りの地理は全くわからなくて!あと、友人のこともどう対応したらいいかわかりませんし……」

「その友人はどちらにいらっしゃいますか?」

藍は仕事をするときのように真剣な表情になる。監察医は人を解剖する仕事だが、医学部を卒業している。何もできないわけではない。

「車にいます!!こっちです!!」

男性に案内され、藍は黒い車に駆け寄る。

「後部座席で苦しんでいるんです!」

男性がそう言い、藍の背後に立つ。藍は後部座席のドアを開けた。

「えっ?」

後部座席には、誰も乗っていない。どういうことかと藍が訊ねようとした刹那、藍の口が手で塞がれ、首に冷たいものが触れる。