ヤギが高いところにのぼるわけ

「そうでしたら助かりました。」

ヤギに紳士は照れ隠しなのか、いやいやと手を振ると

「いやいや、それはそうと、こちらおすそ分けです。こちらこそ屋根を貸していただけてありがとうございました。」

そういってヤギの紳士は私に黄色く光る小さなものを私に手渡した。

「これは?」

「月のかけらです。お口に合うとよろしいのですが」

私は、端っこを少しかじってみる。
月は甘くてそして思ったよりも柔らかく、なにかに例える事もできないような、そんな味がした。
私は正直に感想を述べた。

「今まで食べたどんなものにも似ていない不思議な味です」

ヤギの紳士は穏やかに笑って

「そうなんです。ほかのものでは駄目なのです。」

といった。そして立ち上がり

「そろそろお暇致します。長々とお邪魔いたしました。」

ヤギの紳士がそういうと、会話を聞いていたのか、ほかのヤギたちも引き上げとばかりに降りてきた。
そして、口々に私に礼を言っていく。

「ありがとう。親切な方」

「屋根は広くて快適だったわ」

「また、そのうちよろしく」

そしてめいめいの方向に帰っていく。
あっさりしたものだ。
そして、最後の一匹が見えなくなるころには、空が明けてきていた。
もう月は見えなくなっていた。
逃げてしまったのだろう。
これから半月の間ヤギたちは月を追いかけてゆくのだろう。
月の見える方向にヤギたちは向かっていく。
私はもらった月のかけらをびんにしまい、つぎにヤギのお客様が来た時のために取っておくことにした。
 
月のかけらは今でも戸棚の中でほの淡く光っている。