キミと歩けば

そう言って3人でダイニングの椅子に腰かけた。

「あなた、医者なら分かってるんでしょ。あの子の病気がどんなものか」
「…知ってるよ。知ってたら何なの?」

「あの子の方が雄介より早く最期を迎える可能性が高いんでしょ?あなたにその覚悟があるの?」
「何、覚悟って」
「看取る覚悟があるのかって聞いてるの」
「そんなの、その時にならなきゃ分からない」
「それぽっちの覚悟しかないのに、よく結婚するだなんて言えるわね」

「はぁ?どう言う意味?」
「いい?雄介。夫婦でも親子でも人と連れ添って生きるって事は必ずどちらかが先に死ぬ。同じタイミングで死ぬなんて事、事件か事故ぐらいだからね。残される側になる覚悟はあるの?ってこと」

「残される側…」
「そう。あなただって医者なんだから人の臨終に立ち会った事ぐらいあるでしょ?残された家族が病院から帰った後のこと。考えたことある?」
「……」

「その人の思い出にしがみついて、離れられない人だっているかもしれない。ずっとずっとその場から動けず世間から取り残される人もいるかもしれない。
あなたには、そうなって欲しくないの」

母親の言う事は分かるけれど、何も言い返せない自分が情けなかった。