涙を流しながら必死に首を振った。
言葉が、出てこない。
「本当はこんな嘘みたいな話、人に話すもんじゃない。まるで不幸自慢してるみたいで俺は苦手だった。けど、あおちゃんにだけは話さないとって。ちゃんと話して、あの日のこと謝らないとって……ただの自己満足なのは、自覚してるんだけど」
「……っ」
また必死に首を振る。
そう思ってくれていたなら、あの日の自分が、少しだけ…ほんの少しだけ、報われる。
「……それからは、どうしてたんですか」
少し嗚咽まじりに問いかけた自分に奏先輩は再度口を開く。
「……逃げると言っても、中学卒業間近だった俺たちに行くところなんてまずない。泊まらせてくれる所もない。適当に電車を乗り継いで遠くまで行って。公園で寝たり、電車で寝たり…」
「……」
「当たり前だけど、そんな生活長くは続かない。お金も無くなって、どうしようか、今度こそ死のうかって話してたところに、行方不明届が出されて俺たちを探していた警察に見つかった」
「警察に…」
「1ヶ月くらいは経ってたかな」
1ヶ月も彷徨ってたということ……?
1ヶ月も、中学卒業間近の男女が知らない街を転々としてたなんて…
「俺と瑠衣が見た目からしてやばかったんだろうね。ただの家出じゃないと察してくれた警察の人たちが親身に話を聞いてくれたよ。そして俺たちは、俺の父親が引受人となって戻ることになった」
「……」
「警察に厄介になったことが決定打となって俺の父親は完全に俺を見限った。けど、警察の人が必死に話をしてくれて、なんとかあいつらが接触してこない距離で、誰も知らない土地で生活できるようにしてくれた」
警察の人が良い人で良かった。
心から思う。
ということは、奏先輩はーーー
「じゃあ、今は…」
私の言いたいことを理解したのか、奏先輩は言う。
「……ずっと瑠衣と2人で暮らしてる」
そう、だよね。当たり前だ。
同じ痛みを抱える者同士、簡単にその繋がりは消えるものじゃない。



