あの日の空にまた会えるまで。



「会いにきたといっても、俺に会いにきたわけじゃない。用があるのは瑠衣の方だった」
「瑠衣先輩…?」

「瑠衣を、引き取りたいと」

「え…っ」

瑠衣先輩を、引き取りたい?

「えっ、でもっ」

奏先輩だけじゃなく瑠衣先輩までも責め立てた裏切った2人が突然瑠衣先輩を引き取りたいだなんて、そんな怪しい話…

「俺も変だと思った。瑠衣の母親が死んだのをどこかで聞いたんだろう。家族が1人もいなくなってしまった瑠衣の家族になりたいんだと、綺麗事を並べて俺たちの前に現れた」

その家族が1人もいなくなってしまうきっかけを作ったのは誰なのか。

裏切り行為さえ無ければ母親の自殺だなんて過去を背負わないでいられたのに、それを背負わせたのは誰だと思っているのか。見たことのない人たちに怒りが湧いてくる。

「瑠衣は変だと思いつつも少し悩んでる様子だった。どんな形であれ、家族というものに拘りたかったんだと思う」

たとえ奏先輩の母親が其処にいようとも、それでも家族というものに囲まれて過ごしたかった。瑠衣先輩の気持ちを理解できるほど私は偉くないけれど、ほんの少しだけその気持ちが分かる気がした。

偽りの家族でもそれでもいいから、家族という存在を、瑠衣先輩はただ求めていた。

「そして…俺があおちゃんを裏切った日の前日の夜。俺たちは聞いてしまった」
「……なに、を」
「瑠衣を利用して気ままに生きようと、2人がそう話してた」
「利用…?」

どういう意味…?

「瑠衣を引き取りたいと言ったのは瑠衣が女だったからだ。あいつらは、女である瑠衣に身体を売らせようとしてた」
「な…っ」

絶句した。

これほどに絶句したのはきっと今まで生きてきて初めてだったかもしれない。

「酷い話だよね。俺たちを裏切って家庭崩壊させただけじゃ物足りず、更に追い討ちをかけてくるなんてさ」

身体を売らせる…?

利用する?

余りにも酷い話なだけに、本当に現実なのかとすら思えてくる。