あの日の空にまた会えるまで。



奏先輩は静かに涙を流す私に苦笑いをして、そっと手を伸ばす。優しく掬われた一粒の涙は奏先輩の指を伝ってポトリと落ちた。

「……笑ってって言ったのに。あおちゃんが泣くことじゃないのに」
「だっ、て…」

私が思っていたよりもずっとずっと過酷な過去、そんなものドラマや小説の中だけの話だと思ってた。

ましてや私は、それほどの過去がありながら奏先輩と瑠衣先輩がずっと笑っていたのを知っている。あの頃の笑顔を思い出すことすら切なくて苦しくて、つらい。ーーーけれど。

「……泣かないで」
「っ」

私はコクコクと頷いた。

まだ話は終わってないんだ。まだ続きがある。あの日の真実と2人の過去はまだ結びついていない。最後まで聞かなきゃ…と私は涙を拭った。奏先輩の優しい指先はもう其処にはなかった。

「……瑠衣の母親の死から何年かは何もなかった。本当に何もない、虚無な日々を過ごして、そして中学3年のときーーー」
「……」
「あおちゃんと出会った」
「…っ」

その時、奏先輩は苦笑いでもなく顔を歪めているわけでもない、優しい笑みを浮かべていた。

これほどに優しく純粋な笑みは、今日初めて見たものな気がする。初めて出会ったあの日を懐かしんでいるのだろうか。

「楽しかった。正直言って、あの1年が俺は一番楽しかった。こんなこと言う資格は俺には無いけど、それでもあの1年だけは過去に縛られずに過ごせていた気がする」
「……」

「ーーーあおちゃんといた時間だけは、過去を忘れられた」

目を逸らさず、真っ直ぐに伝えられる。

凄惨な過去を忘れられるほど、私が何かできたわけでもないのに、そんなことを言ってくれる奏先輩にまた涙が溢れそうになる。

「けど、その年の冬…、会いにきたんだ、あいつらが」
「え…」
「不倫をして家族を裏切った俺の母親と瑠衣の父親が…」
「なん、で…」

どうして、いまさら…