「ーーー痛い?」
真央たちがいなくなり静かになった空間に、ミネラルウォーターとティッシュで血や汚れを落としてくれている奏先輩の声が聞こえた。
「……痛いです」
「そっか、他に痛いところは?」
「ない、です」
「良かった。次、腕出して」
携帯のライトで傷を照らす私は、携帯を反対の手に持ち変えて腕を差し出した。
両足両腕に華麗なる擦り傷や切り傷を作ってしまったため、処置にだいぶ時間がかかる。
一瞬静かになったとき、
「ーーーごめん」
その謝罪は、やけに響いた気がした。
「中学の時のこと、ほんとにごめん」
「……」
「謝っても許されないことをしたと思う。だから何も言わなくていい。けど、これだけは言いたかったんだ。
ーーーあんな形で裏切って、ごめん」
悲痛な声なのに、見ていられないくらいに悲しげな表情なのに、傷を洗ってくれているその手はとても優しくて。ジワリと目頭が熱くなるのを感じて思わず目を伏せた。
逃げたくて目を伏せたはずなのに、なのに目を伏せると脳裏に過ぎるんだ。
あの頃、2人で過ごした1年が。
2人で色んなところに出掛けた。いっぱい笑っていっぱい楽しんで、ずっとずっと2人だった。
たとえ恋人ではなくてもずっと2人で過ごせるのだと、勝手に思い込んで、勝手に期待して、そしてこのザマだ。
だからそんな、悲しい顔をしないで。
そんな顔をされたら、泣きたくなる。
涙がジワリと滲むその目で奏先輩を見ることはできない。だから、私は下を向いたまま口を開いた。
「奏先輩は…なにも、悪くないです。私が勝手に自惚れてただけで…だから、自分を責めないで…ください」
「……変わらないんだね」
「えっ」
「いや、何でもない」
苦笑したその笑みに私は小さく首を傾げたけれど、奏先輩はそんな私に何も言うことはなくて。
「……終わったよ」
「ありがとうございます…」
「傷口を洗っただけだし、戻ったら絆創膏かガーゼを貼った方がいい」
「…はい」
「……歩ける?」
優しく手を引かれて立ち上がる。
洗ってくれたおかげで痛みはほとんど無くなって、歩くのも問題なかった。多少の痛みはあるけれど。



