あの頃、私はどうやって感情をコントロールしていたのかな。思い返してみても、彼の人に出会う前の自分をどうやっても記憶の中に見つけることができなくて、思わず苦笑した。それほどまでに、彼の人の存在は今でも胸に住み着いて離れないのだ。
本当、我ながら馬鹿だと思う。
終わりにできなかっただけの恋なんて、時間が解決してくれると思った。時が経つにつれて勝手に終わりにしてくれると思ってた。
「馬鹿だよね、ほんとに」
「…葵」
「自分に呆れるよ」
いつまで経っても前に進めない自分に、心底軽蔑する。
切なげな表情へと切り替わった真央が問い掛けた。
「……ねぇ葵、一つだけ聞いてもいい?」
「なに?」
「葵は、今でも奏先輩が好きなの?」
今でも…。
私は静かに目を閉じた。閉じれば微かに頭に過ぎるあの1年間の記憶。彼の人の優しい声と微笑みは、あの頃必死に追いかけたものだった。好きだった。心の底から、大好きだった。
ーーーけれど。
脳裏に過ぎる記憶は、一瞬にして塗り潰されるんだ。
なにも見えなくなるくらい、真っ黒に。
「……分からない」
本当だった。本当に分からなかった。
どれだけ時が経っても忘れられなかったのはきっとまだ好きだからだ。けれど、好きだと言う感情だけでは拭い去れないほどに、裏切られたという現実が立ちはだかっている。
その現実に感情をつけてみるならば、憎しみや嫌悪感に近い。
きっと好きなんだろう、けれどそれを上回るほどに喪失感が強いのだ。
だから、分からない。
これが、一般的な好きという恋愛感情に結びつくのだろうか?
いや、きっと違う。
好きだけど、好きじゃない。
好きなのに、嫌い。
自分の中で整理できない感情の渦に、自分でさえ飲み込まれそうになる。



