「ありがとうございました、奏先輩!」
「いいえー、またね。あおちゃん」

手を振って3年生の靴箱へと急ぐ奏先輩の背中を見届ける。学校までの道、沢山の話をした。つい最近までランドセルを背負っていたほどにまだ何も知らない1年生だからと中学校の色々を教えてもらった。上の学年に対しては先輩をつけることも知った。

「急がなきゃっ!」

校舎の壁に掛けられている時計を見て急いで教室へと急ぐ。

教室に入ると皆からおはようと朝の挨拶の声が至る所から聞こえてきた。その中で大きな声で勢いよく駆け寄ってくるのは小学校から一緒のいつも元気な友達。

「葵ー!おはよう!」
「おはよう、真央」
「今日は遅かったね?」
「朝から迷子になっちゃって」
「迷子?なんで?」
「ほら、大きな道路に出る道あるでしょ?あそこ工事中で通れないんだって。別の道行ったら迷子になっちゃった」
「そうなんだ。でもよく来れたね」

不思議そうな顔をする真央に私は続ける。

「3年生の人に会って、連れてきてもらったの」
「すごーい!なんか葵、中学生デビューって感じ!」
「えーなにそれ」

楽しく談笑しながら鞄を机の横にかける。私が行ってた小学校は鞄はもちろんランドセルだったし、教室の後ろに全員かけていたから、小学校と中学校って本当に何もかもが違うんだなと毎日感じずにはいられない。

その後すぐに担任の先生が入ってきて、まだ緊張する朝のHRが始まった。

「今日はこのまま1限目に入って、各委員会を決める。この学校のあらゆる行事や仕事の代表を決めるわけだが、とりあえずまずは学級委員長だな」

そうしてぽんぽんと委員会の代表が決まっていく中、唯一決まらないのが学級委員長だった。小学校のときも高学年になると委員会はあったけれど学級委員長はいつだって決まるのに時間がかかった。それは中学に上がっても変わらないのかとまるでひと事のように黒板を見つめながら苦笑する。そんな自分は委員会が変わる後期にどこかの委員会に入ろうと決めていたため、前期ではまずは各委員会どんな仕事をするのかを見定めたかった。

慣れたことなのか担任の先生は困る素振りも見せず、問答無用で話を進めていく。

「誰もいないならばこういうときはあみだくじだ。誰も恨みっこなしだぞー」

まあ、たしかに誰もいない中、そういう手で決めるのも仕方のないことなのだけれど。こういうとき自分に当たってしまったらそれは諦めて誠心誠意頑張るしかないが、これならば最初にどこかで手を上げておくべきだったかと少しだけ後悔する。


そして案の定ーーー



「葵、頑張ってね!」
「うん、頑張るよー」

まさかの学級委員長に当たってしまった。

こういうとき後期にやろうとそんな甘えた考えを持っていた自分を責めたくなる。別に心からやりたくないと思っているわけではないけれど、なんせ初っ端の学級委員長は荷が重い。せめて中学生活に慣れた後期からが良かった…なんて、今更言ったって意味がないのだ。決まったからにはやるしかない。

「佐倉ー、よろしくな!」

そしてもう一つ、副委員長なる役割もあった。その役割に当たったのは率先して手を挙げていたいつも明るいクラスのムードメーカー的な存在である、柿本悠斗という男の子だった。

中学で初めて出逢ったため面と向かってきちんと話すのはこれが初めてで、でも入学したばかりだというのに既にクラスのムードメーカー的な存在なのだから副委員長ではなく委員長をやればよかったのにと心の中で思う。

「か、柿本くん、よろしくね」
「悠斗でいいよ、女子もそう呼んでるし!お互い助け合って頑張ろーぜ」
「うん!」

そうして男の子のグループの中へと自然と紛れていく悠斗の背中を見送った。

中学生活が本格的に始まろうとしていた。