「ーーー葵」


呼ばれた声に振り返る。

「悠斗、どうしたの?」
「次も講義?俺次ないんだけど、昼一緒に食わねぇ?」
「私もないし、いいよ」

そう言って、教科書を詰め込んでロッカーの扉を閉めた。しっかりと鍵もかけて、閉まったことを確認する。そして再び歩き出し、悠斗と並んでその場を後にした。

「今日はなに食おっかな」
「そう言っていつもカレー食べてるよね」
「ここのカレーはまじで美味いんだかんな!一般の人もわざわざ食べにくるんだぞ」
「何回も聞いたよそれ…」
「葵はいっっっつも律儀に弁当だよなー。しかも手作りだからすげぇよ。よく続くわ」
「お弁当作りも楽しいよ?」
「男の俺には無理だな。高校から大学入った今でも毎日弁当なんて続けられん」

当然とばかりに首を振る悠斗に苦笑する。本当はやろうと思えば料理できるくせに。食材を買い込むことすら面倒だからとやらないだけで、悠斗は本当は人並みに料理が出来る。私が教えたともいえるけれど、悠斗は元々面倒見が良く家庭的なタイプだ。ただ全てにおいて面倒くさがりなだけだったりする。

「また作ってあげようか?お弁当」

悠斗に毎日お弁当を作っていた懐かしい高校時代を思い出す。本気で作ってあげようとは思っていないけれど、思わず口にしてしまった。

「いや、いいよ。普通におかしいだろ。俺たちとっくに別れてんだし。線引きは大事だぞ」
「作るわけないじゃん。冗談だよ」
「あ、葵。今日の日替わりカレー、チキンカレーだって。俺カレーにしよ」
「……やっぱりカレーなんだ」

このマイペースな会話も、さすがに中学からの仲なためとうの昔に慣れた。悠斗がカレーを注文するため食券を購入し待っている間に空いている席を探して先に座っておく。

今でも時々、悠斗と一緒にランチルームでお昼ご飯を食べる。そんなときはいつだって席を取るのは私の役目だ。

空いている席を見つけてそこに腰掛けるとすぐに聞き慣れた声が聞こえた。

「葵!」

ガタッと遠慮なく椅子に座るのは、親友である真央で。

「真央もお昼?」
「もう食べたよ。次もないし、今から暇な時間ー」

真央とはコースや学科は違うけれど同じ大学に進んだ。それに真央は4年制の大学ではなく、短期大学部の方だ。

真央の前髪が跳ねていることに気付いて、私は手を伸ばした。

「跳ねてるよ、ここ」
「あーーー。さっき実習で帽子被ってたから。もうほんとやだ」

そう言って跳ねているところを引っ張って直そうとする。