「ーーー新入生?」



突然の声に後ろを振り向いた。

春の風が優しく通り抜け、その風の向こう、桜が舞う景色の中にいたのは同じ学校の制服を着た男の子。

「え、えと、」

戸惑う私に男の子が微笑む。それはまるで安心してと語りかけるような笑みだった。

「君、新入生?同じ学校だよね?」
「は、はい、あの、」

誰ですか、と問いかけたいのに戸惑うことしかできなかったけれど男の子は優しく笑ってくれた。

「俺は3年の川橋奏。よろしく」

さ、3年生だ。

2年も年上なのを知りピン!と背筋が伸びる。中学は年上への敬意や態度が小学校とは違いとても大事なのだと教わった。更に付け加えると上下関係に失敗するといじめられるとも教わった。入学早々、上下関係に失敗することは是非とも必ず回避したい。

「よ、よろしくお願いしますっ」

緊張して頭を下げた私に川橋奏と名乗った人は大きく笑い飛ばしてきた。

「そんな緊張しないでよ、大丈夫だから」
「す、すみません…」
「なんで謝るの。ていうか君、ここで何してるの?」

そう言われても仕方がない。何故ならここは、中学校からは少し離れている道だ。夕方なら帰りだと思われて何ら疑問に湧かないだろう。それが朝、しかも時間ギリギリ。はたから見れば盛大に焦っているそんな女子中学生がいれば疑問に思うのも仕方がないといえる。

「あ、あの、道が、分からなくて…」
「道?」
「いつもの道が工事中で行けなくて…と、とりあえず線路沿いに歩いてたんですけどいつまで経っても分からなくて…」
「ああ、そういうことか、なるほどね」

となりにそびえ立つ線路を見上げて川橋奏さんは納得した表情を見せてきた。なんて恥ずかしい事態なのか。まだ入学して間もないと言えどもこんな所で迷子になるなんて。唯一知っている道に工事中の看板が立てられて通れないと知った時の絶望は今もはっきりと思い出せる。しかし次に言われた言葉に私はさらに絶望を感じた。

「この線路、君反対側に歩いてるよ」
「えっ!」

……どうりでいつまで経っても分からないわけだ。

ガクンと項垂れた私に川橋奏さんは口を開けて盛大に笑った。

「新入生が迷子って、よく恋愛小説とかではあるみたいだけど本当にあるんだね」

男の人でも恋愛小説とかを読んだり見たりするのだろうか。

「俺の幼馴染みがね、よく恋愛小説の話をしてくるんだけどそんな子なんていないっていつも言うんだよ。でも本当にいたね」

ははっ!と最後に笑い飛ばしてくれた川橋奏さんに、私はきっと顔が真っ赤に違いない。本当に恥ずかしい。

「よし、じゃあ一緒に行こう」
「い、いいんですか?」
「どの道向かう場所は同じじゃん。どうせストーカーみたいに俺の後ろついてくるんだったら一緒に行こうよ」

す、ストーカー…。

なんて言い方してくれるのか。

「あ、ありがとうございますっ」
「ん。さ、行くよー」

歩き出した川橋奏さんに、私は慌ててその背中を追いかけた。