淹れたてのココアを部屋に持ち込んでのんびりと過ごしていたときだった。
携帯が着信を知らせる。ディスプレイには真央。
「ーーーもしもーし?」
「葵ー。すごい暇なんだけどー」
いつものように突然のお誘い。真央はいつだって突然に誘ってくる。しかしいつものことだからと特に気にせず、快くその誘いに乗った。
「お母さーん、出掛けてくるね」
出掛ける準備を終えた私は、ココアを入れていたマグカップを洗いにお母さんのいるリビングへ。ついさっきまで掃除機をかけていたお母さんだけど、今はリビングのソファーに体を預けテレビを見ている。その手にはお菓子。本当に忙しない。
「あら、真央ちゃん?」
「うん、暇なんだって」
「あんたも暇だったじゃない」
それはそうなんだけど、いちいち突っ込まなくていいと思う。
「冬は暗くなるのもはやいから、早めに帰ってくるのよ」
「はーい」
マフラーもしっかりと巻いて、まだまだ寒い外へと、一歩を踏み出した。
「ーーー真央!」
待ち合わせたのは地元の小さな神社。
年越しは真央も私ももちろん家族とだったし、新年の挨拶の電話はしていても年が明けてから会うのは今日が初めてなため、初詣へとやってきたのだった。
神社の前で寒そうに肩を縮こませる真央がこちらに気付く。
「あけましておめでとーーう」
……言い方が凍えている。
「今年もよろしくお願いします」
お互い深々と頭を下げて、面と向かっての新年の挨拶。
このやり取りも小学校から続けてきた恒例行事のようなものだ。
「めちゃくちゃ寒いね」
「ほんとに!さすが年明けって感じ」
「真央、寒いの苦手だしね」
「暑いのもきらい!」
簡単に言うと、程よい暖かさと寒さが一番良いということだ。
誰もが同じ思いなんだろうけど。
2人並んで手を合わせ、初詣を済ませた。
絵馬を書こうという話になり、絵馬を購入しペンを手に持つ。
「葵、なに書くの?」
「んー…健康に過ごせますように、とか」
「めっちゃ普通じゃん。新しい恋ができますように、とか現実味のあるもの書きなよ」
「…っ」
動かした手が止まる。
それをチラリと見た真央が言う。
「なんだかんだでやっぱまだ好きなんでしょ?私は嫌いだけど、それでも好きならきっぱりと言葉にしなよ」
「嫌いって…」
「嫌いに決まってんじゃん!気持たせるだけ持たせておいて実は嘘つきました、彼女いましたって、クズの極み!もう一生顔見たくないわ」
鼻息荒く声を上げる真央に苦笑した。



