猫のように小さくなってコタツに潜り頭だけ出す自分に容赦なく降りかかってくるのは我がお母さんの苛立ちの声。
「もうっ!休みだからってゴロゴロしない!」
年が明けたからといって世のお母さんの日常は変わらない。何なら更に忙しくなるだけ。我が家のお母さんもまさにそれだった。朝からテキパキと洗濯に掃除と忙しなく動いている。
「吸っちゃうわよ!」
そう言って掃除機を近付けられる。
「分かったよ〜…」
仕方なく、のろりと体を起こしてコタツから起き上がる。コタツは本当に素晴らしい。だからここで過ごしていたかったんだけどやはり我が家の絶対はお母さんなのだ。
「せっかくの冬休みなんだから、誰か誘って遊びに出掛けたら?」
「寒いもん」
「中学生が何言ってるの。制服着てる時はあんなに足出してるじゃない」
「制服はいいんだよ、おしゃれしないと」
「意味がわからないわ」
そんな会話をしながら、ココアを飲もうと思い立ちキッチンでポットに水を入れる。
「葵、もうすぐ2年生よ?恋愛の1つでもしてるの?」
コップにココアを入れる手がふと止まる。
怪しまれたり勘付かれたりしないよう、一瞬止まった手をすぐに動かした。
「……してないよ」
恋はしたけれど、それはもう過去のことだ。
その恋はもう、
半月前に終わりを迎えたのだからーーー
奏先輩との繋がりを終わりにして、半月が経った。
冬休みに入り年を越しても、連絡はないし、こちらから連絡することもない。元々、自分たちは付き合っていたわけでもないしそんな雰囲気があったわけでもない。何の変哲も無い先輩と後輩で、ただ少しだけ2人で過ごした時間が一般的な先輩後輩関係より多かっただけの話。
勝手に自惚れて期待して、勝手に失恋した。
それでも奏先輩は私の想いに気付いていたのだから、やはり普通の先輩後輩ではなかったのだろう。
嘘をつかれていた。
私の想いを知っていて、突き放すことも何もせず、2人だけの時間を過ごしてきた奏先輩の想いは知らない。
何を考えて、何を思って、私に嘘をつき、優しくしてきたのか、自分にはもう知る術もない。
そして、知るつもりもなかった。
こうして時は流れる。互いが知らぬ場所で大人になった時、青春の一歩だったと振り返るときがもしかしたら来るかもしれない。子どもなりに向き合った、淡い淡い、純粋で一切の汚れもない、学生時代の恋愛の1つとして「あの頃は純粋だった、若かった」と思い出せるような。そんな恋だったと、きっと私は流れゆく時を過ごす度に思い返すのだろう。
奏先輩はもうすぐで卒業する。
大丈夫。すぐに忘れられる。



