今日は教室で受験勉強をすると言っていたのを思い出した。
昨日受験勉強に勤しむ奏先輩と少しだけ顔を合わせた時、奏先輩が忘れていった参考書を片手に鞄を背負う。
「葵ーどこ行くの?」
「奏先輩の忘れ物、届けてくる」
参考書を真央にひらひらと見せる。
「じゃあ私先帰るね?葵、奏先輩と会うと長そうだし」
苦笑いするしかなかった。
確かに奏先輩に会うとなるといつまでも側にいてしまう気がする。ごもっともだ。
機嫌よく帰っていく真央の背中を見送って、教室を出た。
1年生は校舎が別のため、3年生の教室とは離れている。それなりにある距離をゆっくりと歩きながら奏先輩の教室を目指した。
「葵ちゃんだー」
「蓮先輩!」
ポケットに手を突っ込んで前から歩いてくる人、久しぶりに会う蓮先輩だった。
「久しぶりだね」
「久しぶりですねっ!」
秋に入る前、いわゆる前期で学級委員は退いた蓮先輩。そして自分も後期はのんびりと過ごすため前期の学級委員で1年生としての委員会は終わりを迎えた。
お互い学級委員を退いた上に3年生とは校舎も違うため、蓮先輩とは本当に久しぶりだった。
「元気してた?」
「はい!ピンピンしてますよ」
「ははっ、葵ちゃんらしいな」
蓮先輩は奏先輩や瑠衣先輩と同じ公立の高校に行くと奏先輩から聞いた。
ポケットに入れた手と脇腹の間に挟まっている参考書を見て、今更ながらに受験の大変さを知る。奏先輩の受験勉強も私にできることはなにもないため黙って隣にいるだけだけれど、びっしりと書かれたノートはその大変さをいつだって物語っていた。
そして自分も、あと2年ほどしたらその立場になるのだ。
「勉強ですか?」
「まあねー。もう疲れたから帰るよ。こんな勉強尽くしは人生で初めてだわ」
そう言って、肩を落として項垂れる。
そういえば奏先輩も同じことを言っていたことを思い出して、思わず笑ってしまった。そんな私に気付いた蓮先輩が不思議そうに首を傾げた。
「なに?」
「あ、えと、奏先輩も同じこと言ってたなー…と」
「えー、奏と同じこと言ってんの俺?うわー、やだやだ」
きっと奏先輩もこれまた同じことを言うんだろうなと心の中で思う。
奏先輩と蓮先輩はそういう関係性らしい。
「あ、奏といえば、葵ちゃんさ、奏とはどうなってんの?」
「えっ」
「知らないだろうけど、葵ちゃん結構3年の中で有名人だよ。奏の意味のわからない存在の後輩ちゃんってことで」
「い、意味のわからないって…」
た、確かにそうかもしれないけど、ドキッパリとそう言われると多少なりとも落ち込んでしまうものだ。
「3年の中で葵ちゃんは、奏が可愛がってる後輩とも言われてるけど…」
蓮先輩が笑いながら言う。



