あの日の空にまた会えるまで。




「ーーー寒いぃぃ」


右腕にしがみつく真央が少し震えている。首元にぐるぐるに巻かれたマフラーに顔を埋めるようにして小さくなっている姿は毎年この季節になるといつも見る光景だ。

季節は冬。

つい最近のようにも思えた入学式から時は経ち、今はもう進級に向けての準備に入ろうとしていた。

そしてそれは、奏先輩たち3年生が卒業するということを意味している。

「葵、今日も奏先輩と遊びに行くの?」
「今日は家で受験勉強するって言ってたよ」
「ふーん」

奏先輩とはあれからも何度も2人で出掛けたけれど、最近は少なくなってきた。

受験シーズンに入ると奏先輩だけではなく瑠衣先輩も涼先輩も勉強詰めになる。奏先輩の勉強に付き合ったことも何度かあった。もちろん2学年も下の私には分からないことだらけなのだけど、それでも側にいれることだけで幸せだった。

奏先輩の受験勉強の邪魔をしないように極力自分からの連絡も避けてきた。その中で勉強の合間に連絡をしてきてくれる先輩は本当にどこまでも優しい。

そんなことを思っている私の右腕から離れた真央が言う。

「ほんと、葵はお馬鹿だよねぇ」
「え、なんで?」
「だってさー、付き合ってんのかよく分かんない曖昧な関係でもいいんでしょ?」
「だ、だからそれは…」

私がこの関係に答えを求めないのは終わりたくないからだ。

もし、奏先輩に答えを求めて望んだ答えが返ってこなかったら、私と奏先輩は終わりを迎える。2人で出かけることも無くなるだろう。もしかしたら会話をすることすら無くなるかもしれない。自分は、それが怖いのだ。たとえ曖昧でもいいから、奏先輩との繋がりが無くなることだけは避けたかった。

「でもほんと、よくやるよ」
「……」
「瑠衣先輩だっていんのに」

小さく呟く真央に思わず苦笑した。

「でも奏先輩と瑠衣先輩は付き合ってないんだもん」

あの夏祭りのとき、奏先輩は言ってくれた。

付き合ってないと。だから不安になることはない、と。

それを信じて、この曖昧な関係を守ってきたんだ。

「付き合ってないなら、なんであんなにいつも一緒にいんのよ」
「それは……幼馴染みだから」
「幼馴染みだからって男女がくっついてんのはおかしいって何度言えば分かるの」
「でも、奏先輩は心配しないでって言ってくれた」
「へぇー」
「真央っ」

あからさまな空返事に、咎めるように名を呼ぶ。

このやり取りも会話も、奏先輩とこうなってから数え切れないほどやってきた。その度に真央はもうやめろと伝えてくるけれど、私はこの関係の終わらせ方を知らない。知りたくもない。

「でもさ」

白い息が宙に浮いて、そして消えた。

「そろそろ本当にハッキリしなよ」
「…真央」
「あと3ヶ月もしたら、3年生は卒業するんだから」

思わず視線を地面に落とした。

卒業、か。

奏先輩は、卒業したら私とのことをどうするつもりなのだろう。中学時代の思い出として終わるのだろうか、それとも変わりなく続くのだろうか。


ーーーそして私は、どうして欲しいのだろう


「……そうだね」

曖昧な関係の答えはまだ、知りたくないけれど。

それでも答えを出さなければいけない時は、容赦無く目の前に迫ってきていた。