あの日の空にまた会えるまで。




変わりなく話し掛けてくる奏先輩に相槌だけを返しながら、花火が見えると連れられたのは人混みから少し離れた河川敷だった。石段に2人腰掛けて、夜空に目を向けた。

祭りで賑わう声と人だかりはすぐ側にある。ちらほらと近くには花火を見るためにシートを敷いて座る人たちも数人いた。

それでも脳裏にあるのは花火のことではなく、瑠衣先輩のことだった。

せっかく2人で楽しく祭りを楽しんでいたのに、どうしてこんなことになったのだろう。

瑠衣先輩という存在は自分の中であまりにも大きい、と痛感したとき、いつものように奏先輩は話し掛けてくる。

「今日は楽しかったね」
「…はい」
「俺、今年初の祭りだったよ。あおちゃんは?今年もう祭り行ってた?」

笑顔で話し掛けてくる奏先輩に、私はもう限界だった。

「……奏先輩」
「ん?」
「さっきの、気付いてましたよね?」
「さっきの?」

惚けているのだろうか?

「瑠衣先輩です」
「あー瑠衣?いたね、さっき」

どうして、こんなにもあっけらかんとしているんだろう。

「……気にならないんですか?」
「なにが?」

いつまで惚けるつもりなのか。

本当は、私が言いたいこと分かっているはずなのに。

ギュッとスカートを握り締める。

「男の人といたの、気にならないんですかっ?」

俯いていた顔を上げて奏先輩を真っ直ぐに見つめた。その視線の強さに奏先輩が苦笑する。

「……あおちゃんさ」
「は、い」
「ずっと、俺と瑠衣の関係気にしてたでしょ」
「…っ」

気付いて、いたのか。

「放課後、俺と遊びに行くときも、いつも心の中で瑠衣を気にしてたよね」
「…だ、って」
「ん?」

蓮先輩が言っていた言葉が脳裏に過ぎる。

あの時、彼は言っていた。

「特別、なんですよね…?」

あの2人は特別なのだと。恋人や家族でもない。けれど誰にも理解できないほどに特別な繋がりがある、と。

「特別…ね」

前を向いて視線を落とした奏先輩の意味深な言い方に首をかしげる。

「確かに瑠衣は俺にとって特別な存在ではあるけど、かと言って瑠衣が男といたことは俺には関係ないし、気にならない」
「でも、」
「瑠衣に対して恋愛感情があるわけじゃないよ。付き合ってるわけでもない」

顔を上げてニコリと優しく微笑みを向けられる。

「だから、あおちゃんが心配することは何もないんだよ」
「本当に、付き合って…ないんですか」
「うん。付き合ってない」

蓮先輩にあの2人は付き合ってないよと言われた時、それでも信じられなかった。