「人がすごいな…」
あまりの人の多さに隣にいる奏先輩が呟いた。
祭りの会場に向かう道までも、やはり夏の醍醐味であるお祭りなだけあって人が溢れかえっていた。浴衣を着ている人も沢山いる。子どもだって大勢走り回っている。
各々が屋台で買ったのであろうものを片手に楽しそうにお祭りを楽しんでいた。
ふと、若いカップルが視界に入る。
楽しそうに会話をする姿に、私たちも誰かから見れば付き合ってるように見えるのだろうか。もしかしたらあの男女もカップルのように見えて本当はそうではないかもしれない。私たちみたいにただの先輩後輩かもしれない。たとえそうであっても他人から見れば恋人同士に見えるのだ。それならば自分たちもそう見えているのだろうと思うと不思議な気持ちになる。
「さて、なに食べる?あおちゃん」
「あ、先輩、あれ食べたいです!」
「よし、おっけー。行くよ。はぐれないように!」
「はいっ!」
はぐれないようにしっかりと奏先輩の後ろをついていく。
この人混みの中、はぐれてしまったら大変だ。
ーーーこの時はまだ、お互いに笑顔だった。
純粋な気持ちで楽しんでいた。
祭りも終盤に差し掛かった頃、奏先輩が腕時計を確認する。
「もう少しで花火が始まる時間だ。見やすい所に行こう」
祭りの醍醐味はやはり何と言っても花火だ。
夜空に映えるそれは夏の夜空でしか輝かない。
見やすい場所があると言う奏先輩についていく。その道中、心の何処かで願っていたことが無残にも打ち砕かれることとなった。
前から歩いてくる、どこからどう見ても恋人同士の男女。手を繋ぎ体を密着させて互いに笑顔を浮かべている、普通の恋人同士のそれが自分の心に衝撃を走らせた。
「ーーーるい、せんぱい」
思わず足が止まる。
どうして。なんで。思うことは沢山あるのに、その中で一番に感じたのはどうしてこんな時にまた、会ってしまうのか、ということだった。
本当は心の何処かで願っていた。会いませんように、と。瑠衣先輩に会うと現実を突きつけられてしまう。楽しい時間が崩れてしまうのが嫌で、会いませんようにと願っていた。なのに何故、会ってしまうのだろう。
映画を見た時もそう、あの時だって偶然瑠衣先輩と鉢合わせた。あの時と違うのは、瑠衣先輩がこちらに気付いていないということだけだ。
「あおちゃん?行くよ」
前を見据えて歩いていた奏先輩が気付かないわけがない。それなのにあっけらかんとしているその態度に、今度は無性に、腹が立った。
まるでスローモーションのように、瑠衣先輩が男の人と手を繋ぎ楽しそうに会話を弾ませながら横を通り過ぎる。
ーーーこちらには、全く気付かなかった。
男の人との会話に夢中で、視界にすら入っていないのだろう。
なんて、哀れで惨めなのか。



