呆気に取られるくらいいつも通りの会話が目の前で展開されている。
「ねぇねぇ、葵ちゃん」
「は、はい…」
「奏になにかされたらすぐ言ってね?私がこらしめてあげるから」
握りこぶしをかざしてまでそう告げられる。
なんなんだろう、本当に。特別だからこそ、互いに異性と過ごしていても気にならないということなのだろうか。それならばなんて自分は惨めなのか。自分自身に感じる呆れにも似た苦笑が思わず浮かんでしまう。
「今日見に行くって言ってた映画見に行くの?」
「そうだよ。どっかの誰かさんがドタキャンするから、あおちゃんに付き合ってもらってんだよ」
「なに、怒ってるの?」
「怒ってない」
「怒ってるでしょ」
「怒ってないって」
「嘘。怒ってる」
「だから怒ってない。瑠衣のドタキャンは昔からだろ。もう慣れたよ」
なんだか私と瑠衣先輩の隣にいる男の人が邪魔者みたい。お互い一緒にいたのは目の前のこの人たちのはずなのに、私たちだけが置いてけぼりにされてるようで、思わず目を逸らした瞬間。
「……行くぞ、瑠衣」
少し不機嫌な声が耳に届く。瑠衣先輩の隣にいた男の人が既にこちらに背中を向けて歩き出していて、瑠衣先輩が慌てた。
「待って待って!奏、葵ちゃん!楽しんできてね!」
陽気に手を振りながら男の人の背中を追いかける瑠衣先輩に奏先輩も笑顔で手を振っていて、本当に意味がわからない、と何度思ったか知れない2人の関係に再度疑問が浮かんだ。
互いに異性と過ごしていても第三者から見れば特に気にしている素振りもなく、なおかつ送り出す始末。たとえ約束をしていても簡単に別の異性と約束ができる。そんな状況で鉢合わせても表情一つ崩さない。
それなのに、いつも側にいて、特別な存在。
ーーーますます分からない。とぐるぐる考えたものの行き着いたものは何の答えにもならなかった。
「俺たちも行こうか、あおちゃん」
「は、はい」
せめてもう、この日だけでも。
会いませんようにと願う私は馬鹿なのだろうかーーー。



