けれど、どう答えようかと悩んでいた私の頭に懐かしい感触がやってくる。
「……ごめん、狡い言い方した。ごめん」
撫でるわけでもなくただ優しく置かれた手のひらにふとあの頃を思い出す。奏先輩の少し困った、切なげな顔に、私は視線を逸らした。
その顔も……ズルい。
見てはならないと、考えるまでもなかった。
「……ごめん」
「…行きましょう」
線を引くために、あの頃の想いも約束も、全てを忘れるために、無かったことにするためにただの先輩後輩になろうと言った。
自分から言ったことなのに。
前に進むために、自分で決めたことなのに。
出来ると思ってた。簡単だと思ってた。当たり障りのない高校時代を過ごしてきた分、世間一般の先輩後輩という関係がどんなものなのか知ってるから、だからすぐに、忘れて前に進めると思ってた。
なのに、どうしてだろう。
奏先輩を前にすると、自分で言ったはずの先輩後輩というものが分からなくなる。
先輩と後輩ってどうやって接するもんなんだっけ?分からない。何も、わからない。
ーーーただ一つ言えることは、ただの先輩後輩はこんなに息苦しいものなんかじゃない。
「……ありがとう、あおちゃん」
図書館に着くと奏先輩は立ち止まり、少し寂しそうにしながらこの時間の終わりを告げる。
寂しいわけじゃない。2人の時間は確かに息苦しかった。この時間で笑った瞬間があったかと聞かれれば正直言って無かったと思う。



