ガトーショコラを持って、僕は急ぎ足で渡したい人のもとへと向かう。目指すは体育館。バレー部が練習している場所へと足を早める。

いつもそうだ。お菓子を作ってあの子に渡しに行く時、胸がいつも以上に高鳴ってわくわくする。「おいしい」の一言で僕は幸せになれるから……。

ちょうどバレー部は休憩時間になったみたいだ。水筒を手に、一人の女子生徒が体育館から出てくる。ベリーショートのよく似合う綺麗な女の子……。

「真凛ちゃ〜ん！練習、お疲れ様！！」

僕は頰を赤くし、椎名真凛（しいなまりん）ちゃんに手を振る。真凛ちゃんは「またあんた？」と僕をじっと見つめた。

「これ、ガトーショコラ！疲れた時にはチョコレートがいいんだって。あと、真凛ちゃんチョコレート好きでしょ？」

「……あんたね、いつもあたしに何か作ってるけど、そういうのいいから！まあもったいないからいただくけど」

僕の差し出したガトーショコラを、真凛ちゃんはいつものように受け取る。冷たい風に言っているようだけど、僕の作ったお菓子をいつも食べてくれるんだ。